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第1章「運命の予言」

空はまるで焼け焦げた大地を映す鏡のように赤黒く染まり、風が剥ぎ取られる皮膚のように強く冷たく吹き荒れていた。風の渦に巻き込まれるようにして、宮殿「デモノクレア」は暗い光を放つ塔をそびえ立たせ、その姿が夜闇に焼き付いていた。
 

~黒き石板のささやき~

宮殿の大広間、中心には宙に浮かぶ漆黒の石板が鎮座していた。
石板は無音のまま、内側に燃えるような光を揺らめかせ、その表面には奇妙な文字が浮かび上がっていた。
その文字は声に出されることなく、人々の心に直接染み込んでいく。

「創世の巫女をララ・ランドへ送り届けよ。調和の鍵は巫女の中にあり、すべての因果はそこに集う。」

その響きは目には見えない刃のように空間を裂き、集まった長老たちの間に張り詰めた空気を生み出した。
広間の隅では、悪魔たちのざわめきが波紋のように広がり、闇の壁に吸い込まれていった。


「ララ・ランド……奴らの理想郷に再び手を貸せというのか。」
長老たちの一人が低い声を漏らした。

「巫女を動かすには導きが必要だ。その力を引き出せる者がいなければ、すべては無に帰す。」
別の声が続いた。
「我々が関わる以上、何らかの代償が必要だろう。」
やがて、長老たちの目線は一人の影に向けられた。その場に立つバステトは、静かに視線を伏せていた。
命令に縛られる守護者

「バステト、お前の役目はわかっているな。」
一人の長老が語りかける。言葉は水底から響くような鈍い重さを伴っていた。

 

バステトは視線を上げず、足元に漂う影のような気配をまといながら答えた。
「理解しています。命令を全うします。」

その声には冷たさも熱もない。ただ、仕組まれた歯車が回る音のように響くのみだった。

 

「巫女を守り、導け。それが、ここにいる者たちにとって唯一の選択肢だ。」
別の声が静かに告げる。

バステトは答えず、その瞳の奥で何かを隠すように薄く瞬きをした。その背には、誰にも見えない鎖が絡みついているかのようだった。

~月明かりに揺れる巫女~

一方、宮殿の片隅では、フィーネリアが月光に包まれた影の中で静かに立っていた。風が彼女の髪を引き、翼を大きく広げたかと思えば、また閉じていく。手には愛用のヴァイオリンが握られていたが、その指先は微かに震えている。

「巫女……私が?」
声を漏らしながらも、言葉の意味は霧に包まれたままだった。胸の奥に潜む迷いが、視線に映る影を濃くしていた。

翌朝には、宮殿中で彼女の存在が語られていた。「巫女」という言葉が悪魔たちの間を飛び交い、それぞれの欲望が言葉に滲んでいた。

 

その夜、フィーネリアは宮殿を抜け出した。

風の中で姿を隠すように歩みを進めていたが、その背後に獣が息を潜めていた。低い唸り声と共に草が揺れ、鋭い牙が月光を弾いた。

その瞬間、空を裂くような閃光が広がった。
「フィーネリアに手を出す者には行き場などない。」

声と共に現れたのは、黄金の翼を持つバステトだった。

杖を振り上げると、光の刃が獣を貫き、残るのは消えゆく影のみとなった。

「なぜ私を助けたの?」
フィーネリアが震えた声で問いかける。バステトは視線を少しだけ横に逸らし、短く答えた。
「命令だから。それだけ。」

その言葉に感情は含まれていなかったが、どこか言葉の奥に小さな亀裂があるようだった。


「命令だけでこんな危険を冒すの?」
再び問いかけられたバステトは、一瞬だけ口を閉じた後、静かに応じた。

「選択肢がない。それで十分だ。」

その言葉には、触れられることのない過去が滲んでいたが、フィーネリアは深く追及することなく頷いた。

「これからは私が共に行き道案内するわ。」
バステトの声は乾いた風のように静かに響き、フィーネリアはその言葉に従うしかなかった。

二人が歩み出すその足元に伸びる影は、決して交わらない二つの運命の線を描き出していた。

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