
第4章「ヤンキー悪魔」
荒野を進むフィーネリアとバステト。
砂が風に舞い上がり、遠くの地平線を霞ませている。
突然、地響きのような轟音が耳に届いた。
地面を叩くようなリズムが近づき、砂煙が渦を巻きながら迫ってくる。
「バステト、あの砂煙……何か来る!」
フィーネリアが翼を広げて警戒の目を向けると、その向こうから火柱のような生物的なバイク――
「愛騎炎雀(あいきえんじゃく)」が猛スピードで現れた。
その背には、赤い髪を逆立てた悪魔、龍諏威が仁王立ちしている。
~龍諏威の登場~
「待ってましたァァ!!」
炎雀をウィリーさせながら、龍諏威は砂煙を巻き上げて二人の目の前に停まった。
腕を組み、堂々と名乗りを上げる。
「俺っち龍諏威! 今日からお前は俺の女だ!」
その宣言にフィーネリアの口が開いたまま閉じない。
「……は? 何言ってるの?」
彼女の戸惑いをよそに、龍諏威はキラリと歯を光らせながらバイクのハンドルを叩く。
「カッコいいだろ、炎雀! 俺の魂そのものよ!」
「また変なのが来たわね……」
バステトが呆れたように小さくつぶやいた。
「どうする? 素直に俺の女になるか、それとも一戦交えるか?」
龍諏威が特攻服の襟を引き、ドヤ顔を浮かべる。
「そんなの絶対嫌!」
フィーネリアの拒絶に、龍諏威は満面の笑みを浮かべた。
「おお、その反応最高だぜ! 俺のハートに火がつくッ!」
炎雀が低く唸り、バイクのフォルムが変形を始めた。機械のパーツが炎のように舞い上がり、龍諏威の体を飲み込む。
「来たぜ、ドラゴフェニックス完全体だァァ!!」
炎に包まれた巨大なフェニックスが翼を広げ、猛々しい咆哮を上げる。
~フィーネリアの覚醒~
ドラゴフェニックスの突撃に、バステトが杖を構えた。
魔法の障壁が立ちはだかるが、炎の衝撃がそれを押し破る。
「私がやる!」
フィーネリアがヴァイオリンを構え、震える手で弓を引いた。
その音色が空気を震わせるが、炎を止めるには至らない。
「……もっと力を……!」
彼女の声が揺れる中、体の内側から熱が湧き上がる感覚が襲う。
光が彼女の体を包み込み、その輝きは次第に甘美な響きを帯びた。
「えっ、なにこれ……!?」
フィーネリアの衣が薄く透け、肌が光を反射している。
吐息は熱を含み、全身から魔力が溢れていた。
~龍諏威の赤面~
「う、うおおおおおおおお!!!」
龍諏威はその光景を見た瞬間、目を逸らし、顔を真っ赤にする。
「お、お前……そ、そんな姿で俺を煽るんじゃねぇぇぇぇ!!!」
彼の声は震え、今にも逃げ出しそうだ。
「な、何よこれ!?」
フィーネリアは自分の姿に気づき、顔を真っ赤にしてバステトの後ろに隠れる。
バステトはフィーネリアを一瞥し、微笑むでもなく、どこか生暖かい目で見つめる。
「……覚醒すると、少し濡れてイッちゃうのよね。」
「そ、そんなこと言わないでぇぇぇ!!!」
フィーネリアが叫び、ますますバステトの後ろに隠れた。
「も、もう無理だァァァ!!!」
龍諏威は炎雀に跨り、バイクを急発進させる。
「今日はこのくらいで勘弁してやる! 次は、もっと覚悟しとけよなァ!!」
砂煙を巻き上げながら、逃げるように去っていく龍諏威。その顔には羞恥の色が浮かんでいた。
「……もう嫌……!」
フィーネリアは顔を真っ赤にしながらヴァイオリンを握り締める。
「次からは、絶対にこんな覚醒はしないんだから……!」
バステトが肩をすくめ、どこか愉快そうに言う。
「まぁ、そのうち慣れるわよ。」
「慣れたくないっ!」
荒野には笑い声すら残さず、ただ月明かりが二人を照らしていた――。